記念すべきハタチの誕生日の前日の朝、
私は大学に向かってバイクを走らせていました。
バイクの運転が怖いので、スピードはいつも25キロ前後です。
観光地で有名なお寺に差し掛かり、
ずらりと停車するタクシーの列を追い越そうとスピードを上げた瞬間、
いきなり、あるタクシーが運転手側のドアをバッと開けました。
よける間もなくドアとバイクがまともにぶつかり、私は吹っ飛ばされました。
スローモーションのように、1秒が何倍にも長く感じられました。
ゆっくり宙を舞いながら、走馬灯のごとく色んな事が思い出され、
「ああ、ハタチになる前に人生が終わるのか」などと考えているうちに、
やがて地面に叩きつけられ、
(後ろから来ていた別のバイクと対向車線のダンプが間一髪で私をよけるのがわかりました)
衝撃にうめく私の右足の上に、
さらにバイクが落下してきました。
あまりの激痛に叫び声をあげました。
いつのまにやら側に現れたタクシーの運転手が、のんびりした口調で
「大丈夫か?」と聞いてきました。
「そんなことより早くバイクをどけて!!」と泣きわめく私。
するとタクシーのおっさんは、
私を抱え上げ立たせ、ハンドルの曲がったバイクを立たせて、きっぱりと
「
見たとこ、君もバイクも大丈夫や。」と
言い放ちました。
あちこちからゾンビのようにわらわらとタクシーのおっさん仲間が現れ、
口々に「大丈夫や」「大丈夫や」と洗脳し始めました。
私はとにかく恥ずかしかったのと、
マイナス思考の人間が常に持つ
「何かわからんけど私が悪いのかもしれない」という自虐的考えに襲われ、
一応、名刺だけもらって、その場から逃げ去りました。
歪んだバイクで走り出す、ハタチの前の朝。
やっと辿り着いた大学で、校舎の窓ガラス壊してまわったりしませんでしたが、
その日に限って講義の教室が満員で座ることができず、
ズキズキと痛む足で、90分を耐え忍んだのでした。
あまりにも足が痛むので、
帰りに病院で検査を受けると、骨折していることが判明。
それに冷静になってみると、どう見てもバイクも歪んでいるので、
「こりゃいかん」とタクシー会社に連絡することを決心。
名刺に書かれていた電話番号にかけ、
お客さまセンターの担当者に事情を説明したのですが、どうにも話が噛み合いません。
しつこく問答を繰り返した結果、
あのアホのタクシーのおっさんが、
「
今朝、○○寺の前で高校生くらいの男の子をはねた」と
会社に報告していたことが発覚。
こちとら、花のハタチの女子大生として交渉に挑んでいるのですから、
話が合わないわけです。
昔からショートカットでガリガリで声も低い私は、たまに少年と間違われる事もありましたが・・。
もうハタチなのに「男の子」って・・・。
タクシーのおっさんから骨折のみならず、無駄に精神的ダメージまでもくらい、
めげそうになりましたが、
「とにかく、これで誤解もとけた」と一息つき、
おっさんからの連絡を待ちました。
しかし、いくら待っても、何の連絡もありません。
何回も何回もお客様センターに電話をいれましたが、
何日経っても無視されました。
業を煮やした母が、電話しましたが、
これも無視。
ついに怒った父が内容証明を送りつけ、
やっとこさ、治療費とバイクの修理代が支払われましたとさ。
世慣れたタクシーのおっさんって悪質ですね。
都タクシーのバカ!
今度 事故ったら、熟女ばりの色っぽい声で、すぐに警察を呼ぼうと思います。